

最強の矛と最強の盾、どっちを買えば勝てますか?

同じ店で両方すすめられたら、まず店員さんに質問したほうがよさそうだね(笑)

「その矛でその盾を突いたら?」って聞くんですよね。あ、もう店員さんが黙りました。

そこが漢文「矛盾」の核心です。本文は短いので、二つの自慢を対にして読めば、訳も句法も一気につながりますよ。
【今回の真実】
漢文「矛盾」は、書き下し文を丸暗記するより、「何ものも通さない盾」と「何でも通す矛」という二つの主張を対にして理解するのが近道です。本文・訳・句法を対応させ、最後に商人が答えられない理由を自分の言葉で説明できれば仕上がります。
①漢文「矛盾」の意味とあらすじ

「矛盾」は、二つの物事のつじつまが合わず、同時には成り立たないことを表す故事成語です。
「矛」は長い柄の先に刃が付いた武器、「盾」は攻撃を防ぐ道具です。
話に登場する楚の商人は、自分の盾を「何ものも突き通せない」とほめたあと、自分の矛を「どんな物でも突き通す」とほめます。
そこで、ある人が「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と質問しました。
商人は答えられません。
盾が勝てば矛の自慢が崩れ、矛が勝てば盾の自慢が崩れるからです。
「何ものも通さない盾」と「何でも通す矛」は、同時には成り立たない。
まずはこの一組を頭に置けば、本文の否定表現も迷いにくくなります。
「矛盾」のもとになった話は、中国の思想書『韓非子』の「難一」にあります。
もとは、両立しない考えを同時に立てられないことを示すために使われた話です。
②白文・書き下し文・現代語訳

この記事では、流れをつかみやすいよう本文を五つに分けます。
表記や送り仮名は教科書によって少し違うことがあるので、学校のテストでは授業で使った形を優先してください。
一文目:商人の登場
書き下し文は「楚人に楯と矛とを鬻ぐ者有り。」です。
現代語訳は「楚の国の人に、盾と矛とを売る者がいた。」となります。
「鬻ぐ」は「ひさぐ」と読み、「売る」という意味です。
二文目:盾の自慢
誉之曰、「吾楯之堅、莫能陥也。」
書き下し文は「之を誉めて曰はく、『吾が楯の堅きこと、能く陥すもの莫きなり。』と。」です。
現代語訳は「その盾をほめて、『私の盾の堅いことといったら、突き通せるものは何もない。』と言った。」となります。
三文目:矛の自慢
又誉其矛曰、「吾矛之利、於物無不陥也。」
書き下し文は「又其の矛を誉めて曰はく、『吾が矛の利きこと、物に於いて陥さざる無きなり。』と。」です。
現代語訳は「また、その矛をほめて、『私の矛の鋭いことといったら、どんな物でも突き通さないものはない。』と言った。」となります。
「突き通さないものはない」は、言い換えると「何でも突き通す」です。
四文目:ある人の質問
或曰、「以子之矛、陥子之楯、何如。」
書き下し文は「或るひと曰はく、『子の矛を以て、子の楯を陥さば、何如。』と。」です。
現代語訳は「ある人が、『あなたの矛であなたの盾を突いたら、どうなるのか。』と言った。」となります。
五文目:商人の反応
其人弗能応也。
書き下し文は「其の人応ふる能はざるなり。」です。
現代語訳は「その人は答えることができなかった。」となります。
五文の流れは「登場→盾の自慢→矛の自慢→質問→答えられない」です。
この順番を先に覚えると、途中の語句を忘れても話全体から戻れます。
③押さえたい四つの語句と句法
覚える中心は四つです。
●莫能陥也:能く陥すもの莫きなり=突き通せるものは何もない
●無不陥也:陥さざる無きなり=突き通さないものはない
●何如:いかん=どうなるか
●弗能応也:応ふる能はざるなり=答えることができない
ここでいちばん混ざりやすいのは「莫」と「無不」です。
字だけを見ると、どちらも否定に見えるので無理もありません。
「莫能陥也」は、盾の自慢なので「通せるものはない」という否定になります。
一方の「無不陥也」は「無」と「不」が重なる二重否定です。
「通さないものはない」、つまり「すべて通す」という強い肯定になります。
「莫=盾の否定」「無不=矛の強い肯定」と、商品とセットにして覚えましょう。

記号だけで覚えると、テスト中に「どちらがどちらだっけ」となりがちです。
こういうときは、漢字とにらめっこを続けるより、商人が何を売っていたかへ戻ったほうが早いですよ。
売り文句の内容まで一緒に言えれば、句法の意味も現代語訳も同時に確認できます。
④商人が答えられなかった理由

内容説明では、単に「矛盾しているから」で終わらせないことが大切です。
意味は合っていますが、それだけでは本文を読んだ説明になりません。
何と何が、どのように食い違うのかまで書きましょう。
商人は、何ものにも突き通されない盾と、どんな物でも突き通す矛があると主張した。しかし、その矛でその盾を突くと、どちらか一方の主張が成り立たなくなるため、答えることができなかった。
「矛が盾を通す」と答えれば、「何ものにも通されない盾」ではなくなります。
逆に「盾が矛を防ぐ」と答えれば、「何でも通す矛」ではなくなります。
どちらを選んでも、自分が先にした自慢の片方を自分で否定してしまう。
ここまで書ければ、故事成語の意味と本文の出来事がきれいにつながります。
日常の「言っていることが前と違う」という食い違いも矛盾ですが、この作品では「二つの主張が同時に成立しない」という点まで説明できると理解が深まります。
⑤テスト前は四段階で白紙再現

漢文は、書き下し文を眺めて「分かった気になる」ところが少し怖い教科です。
読めば分かるのに、隠すと言えない。
授業後によく起こる状態ですが、今のうちに気づけば大丈夫です。
次の四段階を、教科書を閉じて確かめてみましょう。
●白文を見て、書き下し文を言う
●書き下し文を見て、現代語訳を言う
●「莫」「無不」「何如」「能はず」の意味を言う
●商人が答えられない理由を二つの自慢に触れて説明する
一度に全文を書けなくても大丈夫です。
最初は「盾」「矛」「質問」「沈黙」の四場面を紙に置き、それぞれに本文の言葉を足していきます。
間違えたら、答えを丸写しするのではなく、「読み」「訳」「理由」のどこで止まったかに印を付けましょう。
読みで止まったなら訓読、訳で止まったなら語句、理由で止まったなら二つの売り文句へ戻ります。
完成の基準は、本文を見たことがあるかではなく、見ないで流れと理由を再現できるかです。
文部科学省の中学校学習指導要領解説でも、第1学年では文語のきまりや訓読の仕方を知り、音読することが学習の例として示されています。
声に出すと、「盾の否定」と「矛の二重否定」の対比も耳に残りやすくなりますよ。
⑥教科書の表記を確認して仕上げよう

資料によって「楯/盾」「与/與」「陥/陷」などの表記が違う場合があります。
また、「利き」の読みや送り仮名、句読点の位置にも教材差があります。
これは、どれか一つを見ただけで慌てるところではありません。
学校の定期テストに向けては、教科書・授業プリント・先生の板書で採用された形にそろえましょう。
そのうえで、次の三つを最後に確認します。
●「矛盾」の意味を言える
●盾と矛の自慢を反対にせず訳せる
●商人が答えられない理由を説明できる
この三つができれば、「矛盾」はただの暗記文ではなく、筋道を追って読める文章になっています。
短い本文だからこそ、一字ずつに迷い続けるより、最初に話の仕組みをつかむことが大切です。
「何ものも通さない盾」と「何でも通す矛」を対にして、白文からもう一度読んでみてくださいね。




楚人有鬻楯与矛者。